フランス語なんて知らなくても出来る
ビスケイ湾でのベアーボート・チャーター

(隠れていたセーリングパラダイス)
―――― その 3 ―――
<前号までのレポ−トの要約>
 世界中にはセーリングに適した海面が数多くあり、そこには、必ずといっていい程チャーターヨットが存在する。そこには、世界中からセーラーが集まる。筆者は去る夏、フランス・ノースビスケイ湾で家内と二人でベアーボート・チャーターをするチャンスに恵まれた。フランス語を全く知らない日本人でも、コツさえ飲み込めば初歩の英会話+艇・海・航海に関する単語だけでこの海域のチャーターセーリングが可能であることがわかり、言葉の壁は存在しないに等しかった。前回までに「フランス語の壁」をどう乗り越えて楽しんだかを具体的にご報告した。ご紹介する海域は北緯47度30分、西経2度40分を中心とするたった南北30マイル、東西40マイルの広さの海域なのであるが、そこには日本では想像ができない興味深い多くの選択肢と安定した気候・海象が待っていたのだ。

フランス語なんて知らなくても出来る
             ビスケイ湾でのベアーボート・チャーター
                      (隠れていたセーリングパラダイス)


―――― その 3 ――――

レポート: 高田尚之(ボランスIII)

 チャーターセーリングに行くときは、誰しも、自分のしたいことを夢見ながら計画を立てる。そのとき、夢に合致する現地での選択肢が多ければ多いほどその海域の価値が高い。もちろん気候や海象がよいのは当然だ。チャーターセーリングの基本条件も優良の上での話だ。
 フランス・ノースビスケイのQuiberon湾の海域は、わたしが今まで経験してきたセーリングパラダイスの中でもっとも選択肢の多い海域であった。特に日本のセーラーがめったに経験したことがない選択肢が多い。だから日本のセーラーには是非訪れていただきたいと思い、「セーリングパラダイス」の一つに加えていただきたいのだ。
 日本では、8マイルも河を遡上するセーリングなどないだろう。日本の河川は急流だからだ。しかもその河は歴史に満ち満ちた河なのだ。また、5マイルも運河を航行することもないだろう。運河を航行するには潮待ちをしてキールにさしつかえない水深を確かめ、運河をまたぐ舗装道路が跳ね上るそのピッタリの時間に艇の運行を合わせなければならない。運河の終点は有名な観光地。運河は街のまん真ん中にまで達し、ポンツーンの艇は町のカフェーと一体の景色を作り、艇を見にくる観光客が集まり、降り立てばそこがレストランだなんてスバラシイ……とは思いませんか?
 この海域の干満差は多い時で4メーターに達する。そのため、艇に備え付けの潮汐表から毎日自分で行きたい場所に合わせた干満グラフを作る。運河や河の遡上には注意深いチャートの読み取りや観察も要求される。……と、いった訳で、技術的にもその人その人に会わせた心おどる選択肢が多い。今回はそれらの選択肢をご紹介しながら、ここでチャーターセーリングする時の押えどころに触れてゆこうと思う。

Morbihan湾は歴史の宝庫だ……
 ご紹介する海域にMorbihanという内海がある。面積50平方マイル。その中に多数の島が点在する。1年の日数(365)の島があると地元の人は自慢するが、実際に数えてみると80程度と判断した。だが、島の数の当否はともかく、美しいセーリンググラウンドだ。そして何よりも嬉しいのはその海面がみなセーリングのために開放(?)されていることだ。魚網は全くなく、航路標識は完備され、いたるところに格好なアンカリングスポットがある。もちろん、レストランも。そして、俗化していないのがいい。
 ただ、内湾の入り口の幅がたった0.5マイルしかないため、潮止まりの一時を除いて入り口付近の狭窄部分での潮の流れはいつもまるで川のようだ。平均4−5ノットに達する。だから、通常、満ち潮にのって内湾入りし、引き潮にのって湾を離れる。潮汐グラフが役に立つ。グラフを作る潮汐表は当然チャートテーブルの下に用意されているが、海図(フランス海図Navicarte546が秀逸)とともにフランス語だ。だから、スタート前にどの頁とどの頁を参照するのかを良く聞いておかねばならない。
 ひどい潮流は入り口付近だけだが、岸や島のまわりには反流も渦巻き、浅いところもあるので、エンジン不調に備え、アンカーをいつでもレッコできるように用意する。普通はエンジンを頼ってここを乗り切るのだが、子供に反流を利用したりしながらセーリングだけで乗り切る教育をしているなど地元のセーリングに対する姿勢の厚さを目のあたりにする。
 歴史といえば、湾に突き出た半島には紀元前3000年ころと推定される巨石文化時代のストーンサークルさえもあり歴史探訪にも十分応えられる海域である。食べ物も豊富。Arradonの教会の傍らにあるバー「Le Neptune」のテリーヌはフランス訪問中、一番の美味であった(超秀逸、英語が通じる)。
  この内湾の入り口に外海に面しチャーターベースPort du Crouestyがある。チャートテーブルの下にあった96年出版のフランス語のセーリングガイドを見たら現在規模より小さい図面がのっていたので、このあたりが急速に発展しているのが伺い知れる。
  Port du Crouestyはこの海域の中心的リゾートで、ハーバーのまわりは日本の雑誌にでてくる外国のハーバー風景そのまま。ヨット遊びをしないバカンス客をも含めハーバー付近は日暮れから深夜まで人で溢れる。ハンバーガーから4つ星の高級ホテル(Miramar Crouesty、 一泊1200FF 1FF=\19。田舎価格では超高い)でネクタイ背広でフランス料理を堪能する選択も、チャーター前後に1泊 390FF<Hotel du Crouesty>の清潔で明るい部屋のベットも選択できる幅の広さが嬉しい。

アメリカの独立は、ここAuray河からはじまる……
 当然のことながら、世界史ではフランスが大きな影響力をもつ。
 次にご紹介するAuray河遡上クルージングはアメリカが独立戦争終結の会談をするためベンジャミン・フランクリンがこの河を遡上し、フランスの土地に初めて降り立った由緒ある河上りと町の話だ。
Morbihan内湾に入ってすぐ左手、そこがAuray河が海と連なっている河口だ。が、夏の季節、雨が降らなければ河の流れはなく、内湾で海と繋がっている河は海の干満に従って水が動く。河口で幅300メートル、中途から幅50メートルもない。この河は奥まで8マイル遡上できる長さをもつ緑豊かな河である。
 ただし、海図をみると5マイルの遡上地点から水深1.1とか0.4とかの数字がやたら目に入る。そう、満潮の潮にのらないと浅すぎて遡上できない河なのだ。その上、終着点に14世紀からの有名な町Aurayがあるのだが、その1マイル手前に海図上、桁下14メートルの橋がかかっていて、マストを引っかけずにここを通過しなければならない。つまり、上と下からの航行制限があるのだ。この海域の干満差は2−3メートル。だから十分な水深を得たいと待ちすぎると橋桁が恐くなる。艇をチャーターするとき、マストの高さなど聞かないものだ。また、船にそなえつけの書類のどこにもマストの高さの記載はないのが普通だ。だから、メインハリヤードでマストの高さを測り、潮汐グラフと海図と測深器を見ながらの知恵比べとなる。
 橋を無事にくぐりぬけ、一旦Auray水域に入れば十分な水深と舫ブイが待っている。次の満潮で引き潮にのりながら、あるいは短時間の観光で我慢して海水がたくさん引かないうちに元に戻る、という、冒険心を満たす遡上クルージングなのだ。Aurayはすばらしい町なのでタッチ&ゴーバックではもったいない。
夏の季節には帰りは大抵ダウンウインドとなる。引き潮とセールの展開で河口までエンジン音なしで快適なセーリングを楽しむことも出来る。
 この河はお勧めだ。喧騒からは別世界、「無音」の瞬間すら体験できる。水深関係に自信がなければ、5マイルの遡上地点のBonoとの分岐点までは問題ない。この河を遡上する艇はそう多くはないようだが、河口で潮待ちをしていれば、自分の艇より大きい艇がくることもあろう。その艇の跡をついて走るという手だってあるだろう。くれぐれも水路の真ん中を走ること、「標識の場所はすでに浅い」を心がければ問題がないと思う。
 Aurayにいたる河はかっては貿易船の往来でにぎわったということだが、こんなところが?…、或るいは、こんな不便なとこが?…・と思わずにはいられない場所と河であり、現在は全く静かそのものである。Aurayの中心は船溜りをはるか見下ろす丘の上にあり、ここでもまた、歴史を感じさせる15世紀の教会が建っていて格好なレストランとともに歴史探訪にはこと欠かない。町の探訪はお勧めだ。日本の旅行案内書には記載が見当たらないが、フランスの誇るTGVもここまで伸びていて、フランスの中では有名な観光地の一つでもある。

観光都市の真ん中にまで導く、運河クルージング……
つづいてVannes運河をご紹介しよう。Vannes運河は内海morbihanの一番奥にその入り口がある。すでに一部ご紹介したが、この運河は観光地Vannesの真ん中にまで艇を進めることが出来る運河で、航行の容易さからいうとAuray河よりズットやさしい。なぜなら、行き来する艇数もおおく、Auray河では行く手がどこなのか木々の中に見失い勝ちなのだが、この運河は見通しも開けている上、観光船も途中まで往来しているので、それらを見習えば問題が起きることが少ないからだ。
とは言ううもの油断は禁物。Auray河遡上と同じく潮と水深を気にしなければいけない。
 Vannes運河は全長4マイルに及ぶが、その最後の1マイルは海図上で水深0.5メートルの深さしかなく、Auray河と同じく満潮を待たないと通行できない。最浅部を通過するとやがて水門があり、水門は海水の引き始めの直前に閉鎖され、水門の奥は2.4メートルの水深が保証されている。運河の幅は50メートルしかない。
 ちょうど、海図上で水深0.5メートルになる地点を舗装道路が横切り、この部分が跳橋になっている。その地点直前に跳橋の挙上を待つ船溜りがあり、ここで大小さまざまなモーターボートやセーリングボートがブイにつかまって橋の挙上時間を待っている。
 ここの面白さはポンツーンが観光地の中心地点と一致していることだろう。運河の航行も日本人には興味深いことなのだが、ヨットが観光の中心になるというのも奇妙な体験となる。
 ちなみに、Vannesは遠く9世紀ころからの伝統のある古都で、街全体が城壁につつまれ、大聖堂、城、考古学博物館をはじめ骨董屋がならぶ路地などがあり、ここでの散策も実に楽しい。

大きいハーバー、Haliguen と Trinite……
 今回ご紹介する海域で使う大きなハーバーといえば Port Haliguen、LaTrinite, La Crouesty の3つだろう。La Crouestyについてはすでに述べたので、他の2つについて簡単に問題点をご報告しよう。
 La Trinite は Haliguen と Crouesty の間にある大きなハーバーで写真はこの連載(その1)ですでにご紹介すみの優に500を超えるポンツーンをもつ良港である。ここでの問題は一見入港時の水路が広そうに見えるが、手前1.5マイルあたりからサンドが広く張り出していて座礁する艇が多いという。海図をよく見ることだ。標識の同定を誤ってはならない。ハーバーに入るとポンツーンへはボートボーイが誘導してくれる(1泊 30FF)。他の問題は、Triniteは町全体も小さく、格好なレストランが少ないことだろう。着いたらすぐ偵察をして、夕食は早く予約しないといけない。
 次に、Port Haliguenでの問題点はビジターバースへの達着だろう。ここと、Crouestyのビジターバースは艇をサイド付けにする。フランス・ビスケイ湾での問題点は、チャーター会社Templecraft社によると『潮の大きな干満差、大小の新型やクラシックとりまぜたおびただしい数の艇、フランス語の3点』であるとシリーズ(その1)でご報告したが、まさにおびただしい数の艇が夕方にはそれぞれに泊地を探すこととなる。大型ハーバーを好む艇は早めに入港しないとすでにポンツーンにもやわれている艇へのサイド付けとなる。2列目、3列目とサイド付けは全然嫌がられないのだが、外側に艇をもやったまま観光に行くのには2の足を踏むこととなる。早めの入港が肝要である。
 たとえ早めに着いたとしても、前後1挺身しかあいていないポンツーンへのエンジンでのピタリ横づけは結構むつかしい。左舷づけならまだしも、右舷づけともなると切り替えしに苦労する。しかも、大勢が注視している中でピタリと上手くやりたいと思えば思うほど上手く行かないとは皮肉なものだ。
 また、横付けの場合、しっかりスプリングを取らないといけない。日本ではあまり横付けにしないので、特に2列目、3列目と外側に抱かれるときのスプリングの取り方は演習しておくのがよいだろう。
Port Haliguenは観光地Quiberonと背中合わせ、徒歩15分程にあるためか、旧港に2件レストランがあるだけで、新港には何もない。2件のレストランでは需要にたりない。このハーバーには早く着くのがコツだ。直接ポンツーンにもやい、ゆったりとした気分でQuiberonまで観光や食事にゆくことを勧めたい。

Belle 島は新旧とりまぜた観光の箱庭だ・・・・
 ご紹介しているQuiberon湾の外海に浮かぶBelle島には、毎日フェリーでQuiberonからの観光客が降り立つ。この島はBuretagne地方最大の島で、レンタカーさえもが港にはある。Le Palais の港は城塞の直下にあり、外港と水門で隔絶された内港からなる。勿論、内港は満潮時にしかはいれない。満潮時、外港から1列で静かに内港に入る艇は跳橋付近で観光客のうらやまし気なため息の中を進んで行くことになる。ここでもまた、潮汐グラフが必要となる。
 この港は人気が高いので早めの入港と潮汐に関係ない外港への係留をお勧めしたい。
城塞への散策、島の裏側での洞窟探検など、一味違ったクルージングが楽しめるだろう。そして何よりのご馳走は、ここは大西洋の中の島であり、短い航海とはいえ、Quiberon湾を出てスプレーを浴びながらのセーリングとなる。Quiberon湾からは10マイルの距離である。
 港のまわりにはホテルやレストランが並び、裏通りには取れたての野菜や蟹、魚を売る市もたつ。クレープ屋も多く、その食べ方の種類の多さには驚かされる。
 静かな港が恋しければ3マイルほど北西にあるSauzon港がいい。

最後に、ひなびた島々もわすれずに。その他のこと・・・・
 1つだけ他でチャーターした時と違う遣り方があったので付け加えてご報告しておきたい。それは、チャーター開始時の艇のチェックの仕方だ。普通、初めての時、誰か艇に詳しいマネージャーが来て、艇の備品のある場所やエンジンやコンロの取り扱いを説明するものだ。
だが、今回は全く違っていた。
 英文の備品目録を渡された。自分で「あるなし、良不良をチェックしてもらいたい。すんだら声をかけてほしい。エンジン等主要部分の説明に伺います」という。つまり、船の中をリスト片手に自らが点検することになるわけだ。ウインチ、ウインチハンドルの数、予備シャックル、修理工具、ログブックからGPS、ストームジブ、トイレの使用勝手にいたるまで、あらゆる備品の格納場所とその点検を自分で補助なしですることにより、結果的にその艇の全体を知る方法をとっていた。これはいい方法だと思った。点検には数時間がかかったが、逆にマネージャーとの引き継ぎは10分程度で終わってしまった。
 この方法は、日本からフランス語の分からないセーラーが来たからやった方法なのだろうか?それとも、フランス人の借り手にも同じやり方をするのだろうか…・・もう一度訪れるチャンスがあったら、是非聞いてみようと思う。
 ここまでご報告してきて、この海域での選択肢の多さが伝わったかどうか不安にかられている。なぜなら、どこもが観光地に近く、人、人、人のイメージをお伝えしてしまったのではないかと思うからだ。この海域には殆ど観光地化されていないHouat島やHoedic島もあることを強調しておきたい。これらの島々はいわば孤島であり、ヨット専用の島といってもいいだろう。特にHoedic島は、フランス映画の田舎の島に出てくるような、うら寂しい雰囲気をもつ全く脱俗の島なのだ。荒れ果てた地面と埃っぽい景色。歩いている島民も少く、民家にも人影がない。華やかな観光地からほんの10マイル程度のところに浮かぶ孤島。この落差がたまらなくいい。
 この海域の魅力はセーラーが欲しがりそうなものが皆ここにあることだ。ないのは、南太平洋のサンゴの明るさだけだ。ここでは、歴史と自然と人とがうまく混在し、不思議な魅力をもった海域となっている。こんどはあなたが訪れる番だ。是非この海域を存分に楽しんでいただきたい。 (おわり)

 この海域でチャーターセーリングをなさりたい方、出来るだけの情報提供とお手伝を致 します。ご連絡ください。
連絡先: E-mail: takada@volans.net
Tel 044-233-1640 Fax 044-233-1658