フランス語なんて知らなくても出来る
ビスケイ湾でのベアーボート・チャーター

(隠れていたセーリングパラダイス)
―――― その 2 ―――
<前号レポ−トの要約>
 世界中にはセーリングに適した海面が数多くあり、そこには、必ずといっていい程チャーターヨットが存在する。そして、そこには、世界中からセーラーが集まる。たとえ自分が艇を所有していなくても、きちんとした技術と航海の常識とをもっていれば、1〜2週間の休暇と多少の小遣いで世界のセーリングパラダイスを自分のものとすることが出来る。日本のセーラーたちのもつ困難さは、通常、「外国語の壁」とチャーター海域の情報の少なさだろう。特にフランス人はフランス語しか話さないのでフランスでのチャーターはさらに難しくなっている。だが、それは本当なのだろうか?
 筆者は去る夏、フランス・ノースビスケイ湾で家内と二人でベアーボート・チャーターをするチャンスに恵まれ、「外国語の壁」なんて問題じゃぁないという貴重な体験をした。そしてフランス語圏のため日本には知られていなかったフランス・ノースビスケイ湾の『隠れていたセーリングパラダイス』を詳しく知ることができた。このレポ−トではそこがなぜ『天国』なのかを日本のセーラーにご紹介し、そこで楽しむための押えどころと「フランス語の壁」のしのぎ方を具体的にご報告しようと思っている。

フランス語なんて知らなくても出来る
ビスケイ湾でのベアーボート・チャーター
(隠れていたセーリングパラダイス)

―――― その 2 ――――

レポート: 高田尚之(ボランスIII)

 大好きになってしまった、フランスの田舎とその人々・・・・
 逆説的に言うと、英語圏でベアーボート・チャーターをするよりもビスケイ湾でベアーボート・チャーターをする方が日本のセーラーにとってはずっとやさ易しいかもしれない。
 ビスケイ湾はパリから西に450キロも走らないと着かないフランスの田舎であり、私たちが好きな『セーリングパラダイス』はパリから見れば辺ぴも辺ぴ、ド田舎の海面なのだ。これからご紹介するフランスの『隠れていたセーリング天国』にしたって、一番近くの大きな市Vannesでさえ、人口は20万に満たない田舎なのだ。だから、Templecraft社がチャーターベースはArzonのLe Crouestyだと言ってきても、日本で売っているフランスの地図上でそこがどこなのかサッパリ分からないのは当然なのである。(出発の直前にMichelinの1:20万の道路地図<#230>を手に入れ、ようやくPort du Crouestyがどこなのかが分かった。ちなみに、出発前の「フランス語の壁」の恐怖ため、パリ空港とチャーターベースへの往復とチャーター前後の小旅行にレンタカーを使った<15日で3300FF,ノンマイレージ、1FF=\19.-日本で予約>。 汽車の切符を買うとか、乗り換えとか、「言葉の壁」が到るところにあるからだ。チャーター期間中も車をキープしチャーターベースの一般無料駐車場に放置しておいたが問題なし。この方法はおすすめ。チャーター前後の小旅行もおすすめ。チャーターベースへの往復はLoire<ロワール>川ぞい。Loire川畔には古城多数。シャトーホテル宿泊もおすすめ)
 ことほど左様に辺ぴな田舎のフランス人たちの使う英語は、日本人と同様、彼らにとっても外国語だし毎日使う訳ではないのでなので、イージーイングリッシュであり、分かりやすい。またスピードも英語圏の連中が話す英語よりズット遅い。だから、英語さえ話してくれれば、日本でいう初歩の英会話(中学英会話)で十分なのだ。

 ご承知のとおり、フランス語は発音がむつかしい(このレポートでは地名などあえて日本語化していない)。仮にフランス語会話の簡単な旅行実用書を持っていったって、フランス語センテンスを聞き取ってもらうことは至難のわざである。ただ、有り難いことに発音をできなくても見れば意味が分かる単語がたくさんある。英語と語源が同じものが多いからだ。Capitaine du Port, Previsions Meteorologiques、Station de Taxi、Theatre, Ticket, Supermarche、Entrance, Toilettes、Hotel, Restaurants, Reservation、Banque, Adresse,などなど。Menu, Avec, Hors-d'ouvre, Metro,Chef等、すでに日本でなじんでいる単語もたくさんある。発音をできなくてもフランス語も恐れるにたりない。

 英語と同じという話題のついでにここでご報告しておきたいことは、わたしが出発前から心配していたハーバーに入って「visitor バース」を探す時でも、フランス語でVISITEURと大きく書いてあるのですぐ分かるということだ。また、後で詳しくご紹介しようと思うが日本の松島のように湾内に365の島々が点在すると地元民が称するMorbian湾や8マイルもそじょう遡上ののち終着点に14世紀の有名な町Aurayに至るAurey川のあちこちの泊地には、アンカーを打たないでもすむようにしっかりした直径80cmくらいの白いブイが打たれていて、もや舫っても良いブイには大きく赤ペンキでVISITEURと書いてある。そのブイを拾い上げてせいひつ静謐な時間を過ごしたり、オーバーナイトで満点の星空を自分のものとすることも出来る。

 また、わたしが出発前から心配していた、チャーターベースとの毎日の無線によるロールコールはないし、ハーバーに入る時、或いは停泊ポンツーンを指定される時にVHF無線を使うこともない。
 というわけで、初歩の英会話プラス艇・海・航海に関する単語を覚えているだけでこの海域のチャーターセーリングが可能であるし、それで『セーリングパラダイス』を十分楽しむことができるとなれば、日本のセーラーにとっては英語圏でチャーターセーリングする場合より、ずっと易しいということになる。そこで、フランスの田舎の人々や一緒の海域をセーリングしているフランス人に「英語をしゃべってもらうコツ」が必要になる。筆者はそのコツをうまく会得したのでご参考に供したい。まずはとりあえず、フランスの田舎の人々やフランスのセーラーはみなフレンドリーであり、艇のサイドバイサイドは大歓迎、もやいも快く受け取ってくれ、うまくて安い食事と豊富なワイン、そして素晴らしい『天国』を体験して、フランスの田舎とその人々を大好きになってしまったことをご報告しておきたい。

フランス人に英語をしゃべってもらう「コツ」とは・・・・
チャーターセーリングで大切なのは、基地をはなれて、2−3日後からの天気予報だ。
ベアーボート・チャーターができる海域は強風が殆ど吹くことなく、天気が安定しているところが多い。観天望気が基本になるが、でも、基地をはなれて数日後からの天気予報はやはり気になる。ラジオでは流しているのだが、地方名と場所との関係が分からないと聞いても殆ど役に立たない。英語でも同じだ。ましてや、フランス語では。
 出発前、わたしはマルチニーク島での体験とフランスに行ったことのある友人の話から恐怖にも似た気持ちで「フランス語」の壁を感じていた。この高い壁を突きくずさねば天気予報も知ることが出来ない。なんとか工夫してフランス人に英語を喋ってもらわねばならなかった。
 わたしが知っているフランス語はといえば、「non とoui=NoとYes」「Bonjour=good morning /afternoon」「merci=thank you」「S'il vous plait=please」「la dition=勘定書」だけ。そして、ポケット仏和和仏辞典を持参した。

 大きなハーバーのCapitaine du Portでは建物の外に『天気図と今日・明日の天気予報』が張り出されている。でも、これは時間による。時間が早いと事務所の中に昨日分がしまってある。昨日分でも天気図は大いに参考になる。前線の具合や気圧の配置を知ることは大事な事だからだ。『天気図と今日・明日の天気予報』が表に張り出されていれば辞書を片手に解読は可能である。

 問題は事務所の中にしまってある時だ。その時はこんな具合にやる。
事務所のドアーをあけ、まずごあいさつ「Bonjur」。かわいい女の子がニッコリ笑う。
そこで、すかさず「Previsions Meteorologiques S'il vous plait」といい引き続いてすぐ日本語で「天気予報を知りたいんですが…」とつづける。たいがいキョトンとした顔をする。わたしが喋ったフランス単語は通じない。がS'il vous plaitでなにかpleaseなのだなと分かるらしい。そのあとの日本語でアッケにとられる。日本語なんて聞いたことがない。
 当然、怪訝な顔をされる。そこであわてず、ポケットからユックリ辞書を取り出し、「予報」と「天気」の単語を指で示しS'il vous plaitと付け加える。たいがいこれで理解してもらえ、奥にしまってあった『天気図つきの天気予報』を持ってきてくれる。辞書を引き引きこれと格闘していると、たいがい、「Can you speak English?」と助けをだしてくれる。ここまでこぎつければ、あとは楽勝・・・・・!

 レストランで料理が分からなくて、メニューを見ながら四苦八苦する。この時でも辞書の単語を指差しS'il vous plaitを数回くりかえせば、「Can you speak English?」の世界に入っていける。食材は小さい辞書にのっていないものが多い。だがそれに近い辞書の単語を指差し示すのが「コツ」なのだと思う。
フランス人が英語を話したがらないのは、一部国策で、『フランス人はフランス語を使え、外国人でも公式語はフランス語なのだと認識させよ』の国粋的考えが下敷きになっているという。田舎の人々はそんなに国粋的にかたくではなく、要はフランス人は英語を喋るより得意なフランス語で喋りたいのだ。とくに自分より英語が達者な人に“自分の英語力”を知られたくないのだと思う。だから、かれらの“自尊心”を傷付けなければ、あるいは、こちらがフランス語で苦労しているのを見れば、元々は親切な人々なので、「Can you speak English?」と助け船を出してくれるのだ。

日本字が踊っている辞書が魔法の武器だ・・・・・
辞書の単語を指差し示すのが「コツ」だと述べたが、まさに示したところには日本字が踊っていて、かれらにとってはアラビア文字でも日本字でもよいのだ。「英語圏の人でないよ」とかれらにサインを送ったのと同じこと。このサインによりかれらは“自分の英語力”でもいけると判断、安心して「Can you speak English?」と言ってくれるのだ。
さらには、もしかするとこのBuretagne地方は16世紀になって独立の公国からフランスへと統合されたこともあって、フランスの中でも異色の文化と民族意識を持ちつづけているので国粋的でない別の視野をもった庶民が沢山いるという背景もあったのではないか
と思っている。

 女性づれのチャーターセーリングでは洗濯物が問題となる(外国にゆくときは是非女性づれをおすすめする)。セーリングに行く時でも一般的に女性は日常の習慣を変えたがらない。だから洗濯物が多い。これは外国の女性でも同じらしい。外国人の女性セーラーたちも一抱えも二抱えもの洗濯物をもってくる。大きなハーバーに入ったときには天気予報とコインランドリー探しがレギュラーな仕事となる。大きなハーバーにはスーパーが敷地内にあり、または商店街が近くにあり、そこにコインランドリー(Laverieという)がある。
 コインランドリーの使い方も場所々々で違う。トークンをあらかじめ買うところもあるし、コインをそのまま入れるところもある。器械の使用法もフランス語で掲示してあるが様々だ。だが、コインランドリー探しも使用法を教えてもらうのも天気予報を聞くのと全く同じ要領で「Can you speak English?」の世界に入っていける。

なにはともあれ、こうして基本の5つの言葉と一冊の辞書だけで1週間のチャーターセーリングと10日間の小旅行を快適無事に終えることが出来たのである。だから、日本のセーラーにとっては、ここは「言葉の障害」がない素晴らしい天国なのだと思う。さて、これで、「言葉の障害」については報告し終えた。今度は違う側面から日本のセーラーにとって何故ここがセーリングパラダイスであり、ここをよりよく楽しむためには何に注意
したらよいかに話題をすすめたいと思う。

ふたたび、ノース・ビスケイ湾、Le Crouestyって、どこ・・・・・?
隠れていたセーリングパラダイスとして日本のセーラーにご紹介する海域はノース・ビスケイ湾にある北緯47度30分、西経2度40分を中心とするQuiberon湾の海域である。
 この海域は南北30マイル、東西40マイルの広さなのだが、たかだかこの広さの中に1−2週間では消化しきれないほど多くの日本では想像ができない興味深い選択肢と安定した気候・海象が待っているのだ。

日本人が訪れる夏の季節にはキリが発生することがなく、風も北西ないし西の10−20ノットでほぼ固定的なことも有利な条件だ。前号でもご紹介したが、この海域は本土より南西に突き出たQuiberon半島に続く浅瀬の延長上にHouat島、Hoedic 島が点々と岩礁とともにあることにより、夏の間は万一強風が吹いても囲まれているシェルター水域となり、深いところでも水深20メートル、そのため波が立たないし、大西洋の大きなうねりとは無関係というのも嬉しい。また夏の間は天候も安定している。ビッグセーリングを楽しみたければ岩礁の間の狭い水路を通って外洋に出て「そと海」を楽しむこともできる。

岩礁の間の狭い水路を通って外洋に出ると途端にスプレーを浴びることにもなるが、10マイルも走ればBelle島に取り付くことができ、そこには安全な泊地が待っている。
この海域には、50平方マイルの広さで無数の島を浮かべる内海あり、8マイルも遡上できる歴史に満ち満ちた河あり、無人島あり、華やかな観光地の真ん中にまで潮待ちしながら行ける運河あり、古城あり、ビッグハーバーあり、ひなびた漁港あり…で、選択肢のはばの広さからいえば日本のセーラーの普通の欲求には殆どこたえられ、1−2週間のチャーターなら訪れきれないところがでるほど興味をそそる場所やイベントが存在するところなのだ。

 また、食べ物は旅行者にとっても重要なファクターなのだが、フランスは、いわずと知れた世界の食文化国家。とくにこの地方では、うまくて安いワイン(Bordeaux<ボルドー>はここから車2時間の距離)と日本にひけを取らない多種類の海産物には惹かれる。アジ、サバ、イワシ、蛸、烏賊等々、日本の魚屋の店頭にあるなじみの魚が多い。ハーバーに隣接する魚市場は見るだけでも楽しい。レストランでは、日本と同じようにエビ・蟹・カキ・貝を使った船盛り料理があるのもおもしろい。クレープの本場であることも見逃せない。

 と、いうわけで、大きなハーバーに入ったときには、安くて格好なレストラン探しが楽しみに加わる。夏の間は、緯度が高いので日没は午後9時をまわるため、セーリングの後の時間をゆったりと過ごすことができる。特筆したいことには、何処にいっても蚊や蝿が一匹もいない。心地よい気温とともに極めて快適 !そのうえ、日本とちがって、博物館の展示にも似た古い形の艇が、多数、今様の船に混じって、まさに「セーリングとは、こんなことさ!」といわんばかりにゆっくりマイペースで風と遊んでいる。わたしが今回、日本のセーラーに自らの体験をご報告し、ここを是非訪れていただきたいセーリングパラダイスの一角に加えていただくようご紹介したいと思った動機には、なにによりも増して彼らのマイペースでのセーリングへの姿勢にいたく感動したからに他ならない。次号では、この海域での、短期日では消化しきれないほどのさまざまな選択肢をもっと具体的にできるだけ多くご報告しようと思う。

(次号につづく)